山形大学

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多賀谷英幸
米沢から地球環境問題へ
(2010年7月)


 出張先で本屋をのぞく機会は多いが、少し大きな本屋ではブルーバックスのコーナーを見ることができる。その際、「検証・ヒトが招いた地球の危機」に出会えれば実に幸運ということになる。この本は山形大学地球環境研究会編として1995年末に発行されたものだ。

 山形大学地球環境問題研究会が工学部に設立され、活動を開始したのは1990年11月2日のことになる。地球規模の環境問題は、かつての公害とは規模・様相が大きく異なり、新しい工学的な視点での対応が望まれている。この時、そのような高い意識を持ち、学科横断的な研究者のネットワークが構築されたことになる。YURNSなど、工学部では学科を越えた研究者のネットワークが大きな力を発し続けているが、学科間の垣根の低さは、本学部の強みであることは間違いない。

 半年あまりの間に研究会で開催された講演会のテーマは、「炭酸ガスをモノマーとする高分子合成」、「人工光合成を目指して」、「光微生物に関する研究」、「酸性降下物・メタン・地球環境問題」、「エネルギーと環境」、など多岐にわたっており、学内外の先生方からホットな研究内容などについて貴重な情報と意見をいただいた。同時期に工学部内の教官の方々にお願いした地球環境に関するアンケートでは、専門に片寄らず、物質工学科14名、機械システム工学科6名、電子情報工学科14名、共通講座2名の方々から貴重な意見をいただき、環境問題への具体的な興味や実際に行っている研究など、工学部の状況が明らかになった。しかし同じ問題でもその捉え方や見方は専門により様々であり、情報交換の重要性が改めて認識させられることになった。

 このような状況を踏まえ、1991年3月20日には当時の工学部図書館3階において、「地球環境について考える −身近な地球環境問題−」と言うタイトルで公開討論会が開催された。本学元工学部長で、日本学術会議「人間活動と地球環境に関する特別委員会」のメンバーであり山形県テクノポリス財団理事長であった鎌田仁先生から、「人間活動と地球環境」の特別講演をいただいた。地球環境に関する各人の意識の重要性が指摘され、「地球システム工学」が提唱された。新たなフェーズの研究分野に感銘を受けた方も多かったろう。学内の10人の教官からは、フロン、環境の計測と制御、酸性雨、森林破壊・砂漠化、二酸化炭素、代替クリーンエネルギー、地下水汚染、産業廃棄物、廃プラスチックなどの諸問題について、その概論から具体的な研究までの紹介が行われた。参加された方々が十分に理解され感じるところがあった証拠でもあろう、活発な情報・意見交換が行われた。ちなみに本討論会には、学内はもとより、学外の確認者だけでも80名近い参加者があった。ほとんどが近隣からの参加者であり、その内訳は、会社関係49名、行政関係10名、生徒11名、その他一般の方が6名である。アンケートでは、それらの方々のうち54名から多様な意見をいただいた。地球環境問題に対する関心が実に高くなっており、それに対する工学部からのタイムリーな情報提供であった、と言えよう。

 その後も学内において継続的に講演会が開催されたが、廃棄物シンポジウムや地球環境問題の全学研究懇談会も企画・開催された。また山形大学産業研究所に地球環境部門が設立され、多くの教官の方々が新たな部門に参加され、学外への門が常時開かれることとなった。同時に、米沢市との共催による地球環境展が、多くの企業や市民の皆さんの協力で8年にわたって開催され、一般市民のほか高校生など多くの参加者があった。家電品など卒業生が残していく不用品を在学生等に提供するイベントも米沢市の協力で行われた。会社や行政団体などへの環境に関する出前講義が開催される頻度も高かった。これらは、工学部が、地域とともに環境問題と言うテーマに取り組んだ一連の成果とも言える。 画像:『検証・ヒトが招いた地球の危機』表紙  

 そんな1995年に発行されたのが「検証・ヒトが招いた地球の危機」であった。執筆者として理系だけではなく文系の専門家も加わったが、環境問題の解決には科学技術の発展だけではなく教育の充実や社会システムの構築なども不可欠である。従来の学問領域では整理できない、新しい枠組みが求められていたとも言えよう。  その後は酸性雨や河川水、二酸化炭素の活性化や廃棄物の有効活用など、身近ではあるが多様な問題に、学科を越えた教職員の方々の共同研究が地道に行われ、継続的に成果を上げてきた。

 地方の時代と言われて久しいが、地方大学の評価されるべきポイントは何であろう。地域への貢献は必須・不可欠であるが、それらはやはり枠組みを越えた個々人の要素の掛算で計算されるものであろうか。それとも個々人の要素のベクトルの総和であろうか。本工学部の特徴は、どちらでもないようだ。強いて言えば、学科を越えた個々人の要素同士による相乗効果の存在ではなかろうか。工学部における環境問題への取り組みなど、まさに1+1が3にもなるような相乗効果の結果で間違いない。まるで卑から貴を生む錬金術のようだ、と表現しても言い過ぎではないだろう。法人化されても培われてきたこのような工学部の環境に変化は無い。結実するであろう結晶の種が、身近にいくつも感じることができる。

多賀谷 英幸(たがや ひでゆき)
バイオ化学工学科
有機化学分野
教授

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