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芦田成生
ペンギン博士になりそこなった話(第2回)
(2010年10月)


 11次隊で越冬した時、私の仕事はロケット関係の設備保守、電話交換機の設置、通信設備のケーブルの整理等が主であった。電話交換機の設置とケーブル整理が終わると、月1度のロケット設備保守の仕事が中心で、暇な時間が結構とれた。そこでエレクトロニクス・コンサルタントを開業し、研究者の観測機器の修理等を引き受けたりした。
 松田隊長が生物部門であったこともあり、ペンギンに関しては南極に行く前から非常に興味を持っていた。それまでのペンギンに関する知識は、本や南極関係者の話からおよそ次のようなものであった。
  1. ペンギンは一度“つがい”になると、どちらかが死ぬまで相手を変えない。
  2. ペンギンは自分の卵しか温めない。他の卵は排除する。
  3.  ペンギンの雌が卵を2個産み終わると、その後雌が餌を摂りに巣を離れて、代わりに雄が卵を温める。
  4.  アデリーペンギンは岩の上に直接小石を集め営巣するが、卵を均等な温度にするため(冷やさないため)鶏と同じように定期的に卵を回転させる。
    そこで私は幾つかの疑問をはっきり解明しようと、11月頃になりアデリーペンギンが姿を見せ始めオングルカルベン(基地から5kmほど離れた小島)に営巣作業を開始したのを確認して、隊長に願い出てカルベンでのペンギン調査を実行することにした。下準備として、石膏でペンギンの卵の類似品を複数、その他古いビリヤードの玉、ピンポン玉等を用意した。また、じっくり観察するためには宿泊施設が必要で、居住カブース(そりの上に小屋を乗せたもの)を雪上車でカルベンまで運んだ。食事は昭和基地まで近いので、原則としてスノーモービルを利用して基地に帰り毎食摂った。

 それでは書き損なった私の博士論文の内容を順次ご紹介しよう。まず、カルベンに着き、既に卵を1個温めている若そうなペンギンの“つがい”に目星をつけてスノーマーカー(南極で目印や積雪調査のためのカラー蛍光染料)で白い胸に目印を付け、他のペンギンと区別をした。 芦田成生

  1. 1.  “つがい”の継続性については何年も観察しないと解明できないので諦めた。“つがい”の雌雄は、啼き叫びながら首を上下に振る儀式でお互いを認識していた(お互いの声を聞き分けられるようである。母親と雛との間でも同様である)。たまにはチョンガの雄が一匹でいる雌に近づき“ギャーギャー”啼いていると、相棒の雄が帰ってきて徹底的に追い捲られたりしていた。

  2. ペンギンは自分の卵しか温めない。・・・卵を1個温めているペンギンをそっと抱きかかえ一度巣から出して、まず白い石膏製の卵を置いて巣に戻した。ペンギンは本物の卵と遜色なく腹の下に抱え込んで温め始めた。次に赤い石膏製の卵に取り替えても同じであった。




     次に卵をビリヤードの玉と交換した。結果は白、赤でも石膏製と同じである。ピンポン玉でもソフトボールの球でも同じ。アデリーペンギンのテリトリーの範囲は、半径30cmほどで互いに重なり合いながら存在している。そこで卵を置く場所を変えてみた。
     テリトリーの少し内側:自分の卵として直ぐに腹の下に抱え込む。
     テリトリーの少し外側:これは浸入物として徹底的に攻撃する。もしかして自分の卵を蹴飛ばしてテリトリー外に出ると、壊してしまうことも想像できる。
     卵の数も関係無かった。3個でも4個でも自分の腹の下に抱える。

  3. 雌が卵を2個産むと雄が交代して、雌が食事を摂りにいく・・・・別の“つがい”にも印を付けておいた。数時間おきに観察していると、卵を1個しか産んでいないのに、“つがい”のうちの一羽が居なくなった。観察を続けていると、居なくなって半日ほど過ぎて残ったペンギンの卵は2個になっていた。

  4. 卵を定期的に回転させる・・・石膏製の卵の表面にサーミスターの温度感知部を出した物を用意した。卵を1個しか産んでいないペンギンに石膏製の卵を一緒に抱かせて、ペンレコーダーで記録を取った。温度は校正していないので解らないが、温度変化は十分判別可能である。サーミスターの位置が解かるように石膏製卵の表面に矢印を付け、温度が変わり始めるとペンギンの腹の下を眺めて、サーミスターの位置を確認した。その結果、温度変化は素晴らしいサインカーブを描いた。すなわち鶏と同じように卵を定期的に回転させていた。この実験は1昼夜ほど観察したところで、被疑体のペンギンが2個目の卵を産み、実験用の卵と合わせて3個となり、本物の卵が腹の下からはみ出してしまうので中止した


実験の考察結果(論文の結論)
(1)“つがい”は永年持続する・・・これは他の人のマーカーを付けた調査で明らかにされている。“つがい”は継続する。
(2)雌が先に餌を摂りにいく・・・観察結果から必ずしもそうではない。雌雄の合意の下で雄が先に行くことがあるのではないか。
(3)ペンギンは自分の卵しか抱かない・・・この意見には異議あり。ペンギンは卵の大きさ、色、形、数に無頓着である。自分のテリトリー内であれば、ある程度の大きさの丸い物なら卵と見做す。
(4)ペンギンは卵を温める時には定期的に回転させる・・・これは実験結果で明らかなように、ゆっくりではあるが卵を回している。卵の下側は直接岩の表面に接しているが、南極の夏は日が沈まないので、岩の表面はペンギンが営巣する時期までにしっかり暖められている。岩石は熱容量が大きいので、それほど低温にはならいと考えられる。

 以上が私のペンギンにかんする調査の内容である。論文として提出しなかったので、残念ながら生物博士の称号をもらえなかった。 (11次、14次隊冬、ロケット)


芦田 成生(あしだ しげお)
(電気工学科1964年度卒業)
宇宙開発事業団(NASDA、現在JAXA)元追跡管制部長
(株)NEC東芝スペース元技師長

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